前之園賞受賞者一覧

              第7回 前之園賞    (授賞式2017年7月5日)

【神戸大学大学医院医学研究科・外科学講座国際がん医療・研究推進分野教授、

 国際がん医療・研究センター センター長】 味木 徹夫 教授

『胆道癌の治療成績向上に関する研究』

 胆道癌は日本人の死因の第7位であり、診断・治療の困難な難治癌の一つである。この理由として、診断に関しては癌進展範囲の把握が複雑な解剖のために難しいこと、治療に関しては多くが黄疸を伴っているため、手術や薬剤治療を行う上でのハードルが高いことがあげられる。また、胆道癌は他の癌腫と比べその特性解明に関する分子生物学的研究が遅れ、それに伴い有効な薬剤が十分に分かっていない実情もある。

これらを克服するために神戸大学では、手術前黄疸に関しては外痩法を行い、胆汁還元を行うことで胆道癌患者の免疫能が飛躇的に改善することを発見し、胆汁還元法のエビデンスとして発信してきた。診断に関しては、3D-CT 技術を応用し、手術前胆道像の正確な把握を実現してきた。また、胆道癌における分子生物学的研究データを基に、新規抗癌剤をいち早く導入し、多施設臨床研究へとつなげてきた。これら臨床面、研究面での活動、情報発信を現在でも継続して行っている。

 味木徹夫教授は消化器外科領域の中でも難治癌である胆道癌に対して、その診断・治療に関して多くの独創的で優れた業績を上げてきた。特に、免疫学的観点から手術前黄疸に対する適切な管理法を提案し、また多くの基礎的研究に基づいた胆道癌に対する集学的治療に関する業績により、神戸大学が胆道癌治療の国内有数の施設として認知されるに至っている。

※2017年5月時以前の記載内容となっています。

【神戸大学大学医院医学研究科外科系講座眼科学分野】 中村 誠 教授

『緑内障診療と神経眼科疾患における質の高いエビデンスの構築』

 緑内障は慢性進行性に両眼の視神経が障害される疾患であり、我が国の中途失明原因の第一位である。緑内障の確定診断には視野検査が必要であるが、視野検査は自覚的検査であり、患者の応答に依拠するため、患者応答に依存しない他覚的な視機能解析方法の確立が渇望されていた。中村誠教授は同時に多数の網膜局所に対応する視覚誘発電位(多局所視覚誘発電位)をわが国の緑内障患者ならびに視神経疾患患者へ適応する方法を開発した。また、進行期の緑内障患者においては眼圧下降を企図して濾過手術を行うが、複数回手術既往眼ではその成功率は低かった。申請者は羊膜移植を併用する線維柱帯切除術の臨床研究により、その治療成績が有意に向上することを示した。最近ではこうした症例ではチューブシャント手術が行われることが多いが、従来のチューブ挿入方法では、角膜内皮障害が高率に生じることが問題であった。中村誠教授は手術術式を改変することにより、角膜内皮障害の発生確率を低減させることに成功した。

 光干渉断層計は非侵襲性に網膜の断層構造を描出できる革新的診断技術であるが、従来網膜疾患や緑内障に限定して使用されてきた。申請者はこれを視神経炎や視路疾患の病態解明や局在診断へいち早く応用した。その結果、光干渉断層計の網膜神経線維層厚や網膜神経節細胞複合体の非薄化は、難治視神経炎症性疾患である視神経脊髄炎の診断と予後判定における有用なバイオマーカーであることを見出した。また、視索障害のように病変が非常に限局し、MRI等では描出困難な頭蓋内病変において、光渉干断層計の上記バイオマーカーが特異的な変化を呈し、確定診断に極めて有用であることを世界に先駆けて発見した。

 中村誠教授は厚生労働省難治性網膜・視神経萎縮研究班ならびに日本神経眼科学会の共同事業であるレーベル遺伝性視神経症の認定基準ならびに疫学調査の委員長として、同疾患の認定基準を策定し、2014年における同疾患の新規発症数を特定した。この成果を基に同疾患は2014年より国の難病指定を受けた。

 中村誠教授は、眼科領域、ことに緑内障、視神経疾患の領域における他覚的視機能検査法の開発や光干渉断隈計を用いた病態解明と局在診断法の開発、難治緑内障に対する新規外科的治療法の開発等で独創的で優れた業績を数多く挙げてこられた。また、中村氏は、日本眼科学会評議員、日本緑内障学会ならびに日本神経眼科学会の理事として、日本の眼科分野で指導的役割を果たしてこられた。とりわけ、難治希少疾患である遺伝性視神経症の認定基準や実数調査において先頭に立ってご活躍された。

※2017年5月時以前の記載内容となっています。

【神戸大学大学院医学研究科外科系講座整形外科教授、

 財団法人先端医療センター病院客員部長】 黒田 良祐 教授

『膝関節の3次元的動的解析とその臨床応用』

 黒田良祐医師は神戸大学大学院医学研究科外科系講座整形外科学の教授として、運動器疾患、障害の治療チームのチーフとして活躍中の人材です。現在、日本整形外科学会、日本整形外科スポーツ医学会、日本臨床スポーツ医学会、日本再生医療学会などの役員を務め、いずれの分野でも日本を代表する臨床医学領域の臨床医、研究者として活躍中です。また国際関節鏡・膝・スポーツ医学会、アジアパシフィック膝・関節鏡・スポーツ医学会、国際膝蓋大腿関節研究会など複数の国際学会においても役員を務めております。靭帯再建手術や再生医療の分野において数多くの実績があり、海外からも高く評価されています。また黒田良祐医師は兵庫県下のスポーツチームのサポートを行い、多くのプロ選手の治療に携わっており、また兵庫県下のみならず、プロ・アマを問わず、全国のスポーツ選手の競技復帰に貢献しています。

 黒田教授はスポーツ医学分野、骨再生、軟骨再生分野において質の高い研究成果を上げるとともに、その成果を臨床に応用させ、整形外科分野の治療に大きな成果を上げています。再生医療の分野では骨折、軟骨損傷に対する医師主導治験を行うなど、新規の治療方法を臨床へ応用しており、その成果は最先端の医療として国内のみならず世界的に認識されています。臨床面では全国のスポーツ選手の治療に携わり、臨床医学を志す者の目標となる人物です。

※2017年5月時以前の記載内容となっています。

【神戸大学大学院医学研究科外科学講座呼吸器外科学分野】 眞庭 謙昌 教授

『原発性肺癌における新規分子標的の研究』

 世界的にも癌死の原因の一位となった原発性肺癌の中で、腺癌は著しく増加している。現在、肺腺癌については、非浸潤部位と浸潤部位の混在、そしてその割合による治療成績の違いについて多く論じられているが、非浸潤病変から浸潤部位が生じ、それが拡大していくメカニズムについての知見は未だみられない。

これまでに我々は、肺腺癌症例を対象にして各種の癌関連遺伝子について、遺伝子変異や発現異常を調べ、その臨床的意義を解析してきた。DNA損傷応答遺伝子や DNA 複製関連遺伝子など計 30 種類について臨床病理学的因子との関連を解析した結果、DNA ヘリカーゼの構成蛋白のひとつである Psf3  が最も強い肺癌手術後の予後予測因子(肺癌細胞における Psf3 高発現症例では再発率が高く、予後不良)であることが分かった。また、肺癌細胞株を用いた研究で、Psf3 高発現癌細胞において  Psf3 の発現を抑制することによりその増殖力が著しく低下することを明らかにした。この結果から、本蛋白が肺癌治療における分子標的になり得ることも示された。

 眞庭謙昌教授はこれまで独創的な研究を展開し、「悪性腫瘍の肺転移における血管新生因子の役割に関して」の研究にて学位を取得した。本研究は1997年に開催された第63回アメリカ胸部医学会総会でも高い評価を受け、Young Investigator Award を受賞となった。その後、2001年より2年間、米国ニューヨーク市のメモリアル・スローンケタリング癌センターの分子生物学教室においてリサーチ・フェローとして研究に従事し、その内容はアメリカ科学アカデミー紀要に掲載された。帰国後はその経験を生かし、基礎医学領域で先端的な癌研究を展開する国内外の研究者とコミュニケーションを深め、トランスレーショナル・リサーチの分野を中心にユニークな研究を展開しており、その成果は研究実績に示された通りである。

※2017年5月時以前の記載内容となっています。

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