前之園賞受賞者一覧

              第9回 前之園賞    (授賞式2019年4月3日)

【神戸大学医学部附属病院・呼吸器内科】西村 善博 教授

『農作業関連喘息の原因抗原の同定と診断法の開発』

 兵庫県は全国平均に比較し、気管支喘息による死亡率が高い。兵庫県が抱える気管支喘息治療の課題を克服し、喘息治療を取り巻く医療協力体制の確立を目的に、平成22年に「兵庫県喘息死ゼロ作戦」を設立した。この活動を通して地域の医師会、自治体、患者会などと協力して、各地区の医療実情に応じた喘息治療の実践・啓発活動を行ってきた。具体的には各地域の特徴、地域独自の問題点に即した吸入ステロイドの普及方法の確立、喘息治療の均ー化を図る取り組みを行い、地域の非専門医、薬剤師を対象として講習会を各地域で開催した。平成24年度からは吸入薬剤指導の均ー化を目的に吸入指導箋の普及、喘息患者の救急受診後の再受診調査、喘息患者情報の共有化(喘息ノートや地域での呼吸器疾患ネットワークの構築)を行い、また、これらのデータを日本アレルギー学会や学会誌に発表してきた。平成25年度は医療介入が難しいと考えられる高齢者福祉施設入所者の喘息治療実態調査を行った。さらに、喘息発作時の対応についての患者指導を行い、「ゼロネットノート」を作成して専門医と非専門医との連携を強化した。平成26年度より兵庫県の南あわじ地区の農家1168人にアンケート調査を実施し、農作業関連喘息と思われる症状を有する人が126人(回答者の14.5%)に上ることを明らかにした。西村善博教授は、農作業関連喘息の実態を調査し、地域住民や医師会への情報提供を行い、適切な医療を受けられる機会を患者に提供する活動を行っている。さらに、原因物質の特定を行い、新規診断法ならびに減感作治療薬の開発に取り組んでいる。農作物の栽培は農家の貴重な収入源であり、現実的には抗原回避は難しい。本活動を通して、農家が安心して症状に悩むことなく暮らしていける町づくりが可能になることが期待される。

 西村善博教授は気管支喘息の病態生理において、スフィンゴ脂質とリン脂質分解酵素に着目し、気道上皮細胞の気道炎症に果たす役割を解明してきた。さらに、気管支喘息の主要な病態である気道過敏性の亢進や咳嗽に関しても独創的で優れた業績を上げている。また、兵庫県喘息死ゼロ作戦を通して、地域医療における喘息治療の質の向上に多大な貢献をした。

※2019年4月時以前の記載内容となっています。

【神戸大学大学医院医学研究科・内科系講座 放射線診断学分野】 村上 卓道 教授

『Dual-Energy CTの組織物質弁別画像による血流・組織解析法を用いて肝細胞癌に対する分子標的薬の治療効果ならびに背景実質への影響の評価』

 肝細胞癌のhigh risk 患者において、肝細胞癌の早期の診断·治療は予後の延長に非常に重要である。肝細胞癌の描出、鑑別、治療効果判定には、造影剤を高速で静注し経時的に撮像するダイナミックスタディーがCT、MRI において非常に重要である為、時間・空間分解能の高いマルチスライス CT を用いたダイナミックスタディーの肝腫瘍の診断能の研究を行うと共に、ダイナミックスタディー撮像法の最適化の研究にも注カし、現在の上腹部ダイナミックCTの撮像プロトコールを確立した。特に、動脈相を2相撮像する double arterial phase imagingは多くの国のCT 撮像プロトコールに応用されており、これらの研究成果は、肝癌診療・画像診断ガイドラインに反映されている。

 また、異なる2種類のエネルギーのX線を用いて撮像するデュアルエナジーCTを用いて、組織を分離、同定して画像化・定量化する組織物質弁別画像を米国GE社と共同で開発し、ファントム実験や臨床研究で脂肪・線維化の定量性能の高さを明らかにした。この組織物質弁別画像の肝臓疾患への応用、開発に関して、臨床・研究面で世界をリードしている。

 村上卓道教授は腹部骨盤領域の疾患に対する最新画像診断やIVR治療技術の開発に積極的に取り組み、特に肝臓領域でダイナミック撮像法や肝組織特異性MR造影剤を用いた肝腫瘍描出法や肝機能画像診断の開発に独創的で優れた業績を上げてきました。村上卓道教授の研究成果は日本医学放射線学会や日本肝臓学会の肝癌診断・治療におけるガイドラインにも反映されており、国際的にも高評価されています。

※2019年4月時以前の記載内容となっています。

HOME

TOP

開催見送り(2020年)

第10回 前之園賞 (2021年4月8日)

COPYRIGHT(C) KEIAI MACHIZUKURI FOUNDATION ALL RIGHTS RESERVED