第10回 前之園賞    (授賞式2021年4月8日)

【神戸大学大学院医学研究科・外科学講座  心臓血管外科学講座】岡田 健次 教授

『胸腹部大動脈外科治療における脊髄障害予防に関する基礎的研究』

 胸腹部大動脈瘤人工血管置換術後の脊髄障害は本術式における最も重篤な合併所のひとつである。経年的に成績は向上してきたが世界的にも5-7%の頻度で発生している。神戸大学附属病院心臓血管外科は胸腹部大動脈治療センターとして中心的役割を果たすととともに、脊髄予防に関する臨床的研究のみならず基礎的研究を積み重ねてきた。

 脊髄神経への主要な栄養血管である肋間動脈脊髄枝である前根髄動脈のうち最大である大前根動脈 (Adamkiewicz:AKA)の術前CTによる同定、術前日の腰椎ドレーン(SpinaI drainage)の施行、術中運動誘発電位(MEP)による術中モニタリング、AKAの的確な再建、厳格な術中循環動態管理などを行うことで脊髄障害の発生頻度を低下させることが可能になったが、さらなる成績向上のためには脊髄の虚血・再灌流障害などの病態を見据えた一歩踏みこんだ介入が必要であることを提唱し報告してきた。

 岡田健次教授は心臓血管外科領域、特に大動脈外科治療に造詣が深く多くの臨床経験を有している。その治療における最重要課題である脳脊髄障害予防に関する臨床的研究を積み重ね、病態の解明のため一貫して優れた基礎的研究を実践し臨床成績向上のため多大な貢献し、胸腹部大動脈治療の安全性をさらに高めるべく日々研鑽しています。

※2021年4月時以前の記載内容となっています。

【神戸大学大学院医学研究科・内科学講座 消化器内科学分野】 児玉 裕三 教授

『IgG4関連疾患の自己抗原同定による病態解明』

 IgG4関連疾患は血清IgG4高値に加え、IgG4陽性の形質細胞浸潤による全身臓器の腫大と線維化を同時性・異時性にきたす、我が国で確立された新しい疾患概念である。以前より自己免疫の関与が示唆されてきたがその原因は不明であり、2014年には我が国の指定難病に指定された。児玉裕三教授はこれまでに、多数例の自己免疫性膵炎症例の疫学的な解析により、自己免疫性膵炎には悪性腫瘍の合併頻度が高いこと、さらには一部の自己免疫性膵炎は傍腫瘍症候群として発症する可能性を見出してきた。また最近では自己免疫性膵炎患者の血清から抽出したIgGが、病原性を有する自己抗体を含むこと、その標的抗原がラミニン511であることを示し、ラミニン511が自己免疫性膵炎の病因自己抗原であることを世界に先駆けて発見した。その研究内容は疫学研究や病態解明研究のみならず、同疾患の診療における国内ガイドラインや国際コンセンサスの作成にも至り、基礎・臨床の両面において世界をリードしている。

 児玉裕三教授は全身性の難病であるIgG4関連疾患の領域において、疫学的な研究による臨床像の解明や、患者サンプルを用いた病態解明研究により極めて独創的で優れた業績を残してきた。特に自己免疫性膵炎の病因自己抗原の同定は、まさに同疾患領域のブレークスルーであり、関連する学会や厚生労働省班会議のみならず国際的にも高く評価されている。同氏はIgG4関連疾患の国際コンセンサスや、自己免疫性膵炎の診療ガイドライン作成委員を務めるなど、臨床分野において幅広い貢献をしています。

※2021年4月時以前の記載内容となっています。

開催見送り(2020年)

第10回 前之園賞 (2021年4月8日)

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